木には葉っぱが広く平たい「広葉樹」と葉っぱが針のように細く尖った「針葉樹」の2種類があります。広葉樹は枝分かれしながら育ちますが、針葉樹は上に向かって真っすぐ伸びるので、木材としてよく利用されるという特徴があります。
また、葉っぱの落ち方で木を分類した場合、1年中緑の葉っぱをつける「常緑樹」と冬に葉を落とす「落葉樹」の2種類に分けることができます。
森と一口に言っても、森には「天然林」と「人工林」の2種類があります。「天然林」は自然のしくみによって形成されるものであるのに対し、「人工林」は人間が主に木材を得るために、スギやヒノキの苗木を植えてつくった森林です。人工林では同じ種・同じ年齢の木がびっしりと並び、そうした人工林を健全に維持していくためには定期的な手入れがかならず必要になります。
豊田市は愛知県で最も大きな市域面積(約9.2万ha)をほこり、そのうちの約7割を森林が占める「森林都市」です。その森林のうち、半分以上がスギ・ヒノキを中心とした人工林となっています。市内には三河湾へと繋がる一級水系矢作川が流れており、その上流域に向かうほど、人工林の割合が高く、下流域に向かうほど天然林の割合が高くなるという特徴を持っています。
森にはさまざまな機能があり、それは大きく8つに分類されて整理されています。
これら8つの機能を「森林の多面的機能」と呼びます。そこから物質生産機能を除いた7つの機能を「森林の公益的機能」と呼びます。
日本の森では植えた木が混み合った「過密人工林」が問題となっています。戦後に木材が不足した日本では、人工林が急速に拡大していきました。日本の約半分の森林が人工林となり、豊田市でも57%が人工林となっています。
人工林では、植栽した木を抜き伐りする「間伐」という作業がかならず必要となります。しかし、次第に木材価格の低下により林業経営が見放され、手入れがされないままの過密人工林が全国で増えていきました。過密人工林は公益的機能の低下を招き、下流域に住む人々にも悪影響を及ぼします。この問題は山村部だけでなく、都市部の住民も一体となって考えていかなくてはならない問題です。
間伐がされた健全な人工林では、光が差し込み、下層植生(背の低い植物)が豊かになります。雨が降った際には、下層植生がクッションのように雨粒をやさしく受け止め、雨で土が削れるのを防いでくれます。さらに、たくさんの植物の根や落ち葉、土の中のモグラ・ミミズ・昆虫たちの活動などによって、フカフカの「団粒構造」を持つ土が形成されていきます。こうした土にはたくさんの水を貯めることができ、森はゆっくりと時間をかけて下流域へ水を流してくれます。
それに対し、不健康な過密人工林では、木が元気に育つことができず、ヒョロヒョロのもやしのようになっていきます。そして、林内には光が差し込まず、下層植生が少なくなることで、虫や鳥などの動物も少なくなり、生物多様性が低下します。さらに、雨粒が土を直接叩くことになるため、森の土が流れ出てしまうのです。そして長期間の雨粒の落下衝撃によって、土の団粒構造も破壊されていきます。このように過密人工林ではフカフカの土が無くなり、団粒構造が破壊されることにより、緑のダム機能(スポンジ機能)が低下し、その結果洪水や渇水を招きやすくなるのです。
豊田市では2000年7月に発生した東海豪雨で洪水や土砂崩れなどの甚大な被害を受けました。その後、森林ボランティアの皆さんが各所で行った「森の健康診断」では、豊田市の人工林の6~8割は過密であるという結果が示されました。
~もっと知りたい~
まず風散布型種子を持った草本植物(メリケンカルカヤ・ススキなど)が最初に芽生えます。これらは種子の移動能力が高く、ひらけた明るい場所を好みます。こうした場所に最初に生える植物は先駆植物(パイオニアプランツ)といいます。
次に、明るい場所が得意な樹木(アカメガシワ・アカマツなど)が草本の背丈を徐々に追い越し、草本が樹木に置き換わっていきます。こうしてできるアカマツを中心とした林が最初に成立する森林です。
アカマツ林ができると、ここで面白いことがおきます。アカマツは太陽の光を1日中必要とする植物ですので、アカマツ林の林床では、アカマツの稚樹は光不足となり成長できません。親の下で子は育たないということです。そのかわり、半分程度の光の量でも生きていけるコナラやアベマキといった落葉広葉樹のどんぐりの仲間が林床でゆっくり成長します。この間に、アカマツは寿命・病虫害により徐々に姿を消し、コナラ-アベマキ林に変わっていくのです。
コナラ-アベマキ林でも、先ほどと同じことがおきます。コナラの下では、コナラの稚樹は光不足により、育たないのです。今度はかわりに、非常に少ない光でもゆっくり成長できるシイ・カシ類といった常緑広葉樹のどんぐりの仲間たちが少しずつ大きくなっていきます。こうして豊田市内のおおむね標高500~700m以下の地域では、最後にシイ・カシ林ができ、これがこの地域では最も安定した森の状態です。こうした森林を極相林(クライマックス・フォレスト)といいます。
このような森の一生を「植生遷移」といいます。植生遷移は主に各植物の耐陰性の違いによって生ずるもので、日本の森は自然の力によって徐々に森が変化していくのです。理論的には1度、極相林が成立するとその後も安定して続いていくことになりますが、現実には老木の古死や風雪害、土砂くずれなどによって、さまざまな遷移段階の森がモザイク状に成立することが多いようです。
よく「天然林が荒れている」という言葉を耳にしますが、天然林は多くの場合、人の手入れはノータッチで問題ありません。天然林と人工林は全く異質なものであり、これをひとまとめに考えてはいけません。人工林は極端な言い方をすれば、収穫時期が非常に長い畑のようなものです。一方、天然林は人類が地球に誕生する以前からある生態系のシステムによってつくられるものです。
よって「天然林に人間が手を加えなければ荒れていく、悪くなる、崩壊する」ということはあり得ないのです。しかしこれは絶対にタッチするなということではありません。タッチしても構わないし、それが良い効果を生むこともあります。例えば、特定の絶滅危惧種や湿地の保全をする場合や、人間が立ち入ることが多い場所で枯れ枝が落ちてこないようにしたい場合、しいたけ原木を生産したい場合などです。しかし、その他の多くの場合ではノータッチで問題ないということです。
例えば、里山の環境を維持しようと考えたとき、実はこれは無理やりなのです。里山というのは、人間が生活する上でできていったものです。薪をとり、落ち葉を水田や畑の肥料にする。そういった必要があって、形成されたものです。しかし、現代社会ではそうした生活様式がなくなりました。すると里山は次の段階へ徐々に遷移していきます。植生遷移によって森が変わっていく途中の状態を私たちは見ているのです。そこで枯れ木が増えたとしても、それが荒れているとか悪くなっているとか、そういうことではないのです。
私たちが普段よく目にする鳥やチョウ。それらは私たちの生活に直接影響をおよぼしているわけではありません。そのため、生物多様性がいまいちピンとこないこともあるかもしれません。しかし、すべての生物はつながっており、私たちは他の生物を利用して生きています。毎日の食事・衣服・薬・水・空気など、いずれも生物多様性がもたらす自然のめぐみです。花粉を運ぶ虫がいなければ、花は咲きません。魚の餌となる虫がいなければ、食卓に魚は並びません。健全な森林生態系の実現は私たちにとっても非常に重要なものであり、生態系や林業をトータルで考えていかなくてはならないでしょう。
生態系をあらわす図として生態系ピラミッドがあります。ピラミッドの頂点にいるオオタカやサシバのような高次消費者が生息していくためには、それを支える豊かな森が必要です。しかし、過密人工林は下層植生が少ないため、それをエサとする昆虫や小動物の数も少なくなります。ピラミッドの底辺が小さくなるため、高次消費者も姿を消すのです。
ひとつの生態系には多くの動植物が関わり、それらが食う-食われるの関係で鎖のように繋がっています。これを食物連鎖といいます。一見、私たちと関係ないようにみえる生物でも、すべての生物は繋がっており、ひとつの種に与えた影響は鎖を通じて連鎖していくのです。単純な構造をした食物連鎖は不安定な状態であり、ひとつの種に与えた影響が全体の崩壊を招きかねません。それに対し、複雑で多様な構造をした食物連鎖は、安定性が高いと言えます。例えば「アマガエル」が絶滅したとしても、「ヌマガエル」がいれば、「シマヘビ」はそちらを捕食することで生きていくことができます。「シマヘビ」が絶滅したとしても、「オオタカ」は「マムシ」を捕食することで生きていくことができます。森林を健全に保ち、複雑な食物連鎖をもつ生態系を実現することが重要です。
林業は収穫までにかかる期間がとても長いことが特徴です。そしてその期間は、50年~100年、場合によっては200年など目的や経営戦略によりさまざまです。その間に林業では以下のような作業があります。
地ごしらえ地面に散乱している枝葉などを並べて、苗木の植え付け作業をしやすくする作業です。 |
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林業用苗木栽培苗木は苗畑とよばれる畑で栽培されます。森林組合を通じて苗木を購入することができます。 |
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植栽水分が多い場所にはスギが適しており、それよりも水分の少ない場所にヒノキ、さらに乾燥した尾根部などにはマツが適しています。適地適木の原則「尾根マツ、谷スギ、中ヒノキ」を考慮して植栽を行います。一般的には1haあたり3000本程度を植え付けます。 |
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下刈り苗木の成長を妨げる草や低木を刈ることをいいます。苗木がおよそ2mを超えるまでの間の5~8年間行います。下刈りは林業で最もコストがかかるたいへんな作業です。つる切り植栽木にからみついたつるを切ることをいいます。 |
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枝打ち無節の木材を得るために行う作業です。しかし近年は節が大きなデメリットにならないこともあることから、この作業を行うことが少なくなっている地域もあります。 |
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除伐植栽木がまだ小さいころに不用な木を伐採する作業です。間伐残す木の成長を促進させるために、木を間引く作業です。切置き間伐や利用間伐、巻枯らし間伐など、目的や経営方針によって実にさまざまな間伐手法があります。 |
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主伐(皆伐・択伐)収穫を目的として伐採することを主伐といいます。全ての木を伐ることを皆伐、一部の木を残して伐ることを択伐といいます。 |
間伐遅れ人工林を判断するためにはどのようなポイントがあるのでしょう。最大のポイントは地表の植物が極端に少ないことです。そして、すぐにでも間伐が必要な人工林を見分ける決定的なサインを2つ紹介します。
小石や球果の周りの土壌が雨で削られ、土が柱上に残ったもののことを土人形と呼んでいます。
木の細根は自ら地表に出てくることはありません。雨によって土が流されると、細根が地表に現れます。
このどちらかのサインが見つかったら、もうその人工林は危機的な状態と言っていいでしょう。
人工林は、現在では林業経営が成り立たないような場所(道から遠い場所や急傾斜の場所など)にも多く存在しており、これは過去に人工林を作り過ぎてしまった結果と言えます。
林業に適した場所では公益的機能をできるだけ確保しながら木材生産をしていく。そうでない場所では、間伐を繰り返すことで、下層植生の生えた健全な人工林、さらにはより自然に近い森である針広混交林も目指し、公益的機能の向上をはかることが重要です。これが私たちの目指すべき森の将来像となります。
豊田市では強度間伐(間伐率40%以上の間伐)を着実に進めており、過密人工林の割合を15年間でおよそ2/3から1/3程度にまで減らすことができました。今後は林業の作業員がさらに減少していく懸念がありますが、過密人工林の一掃に向けて、引き続き間伐を強力に進めていく必要があります。
林業で働く就業者は年々減少し、木を伐りたくても伐る力が少なくなってきています。 そのような中、森が抱えるあらゆる問題を解決するためには、森に関心を寄せる人口、さらには森に関わり続ける人口を増やすことが重要です。森林・林業を理解した市民、山主、ボランティア、森林サービス産業の起業者、行政、研究機関、学校、テクノロジー・IT企業など、さまざまな人が協力しあうことで、業界に大きな力が生まれます。そして山間部に人が増えれば、林業に魅力を感じる人も増えるでしょう。一人でも多くの森林関心人口を増やし、一人ひとりが森の魅力や問題を社会へ発信していくことが必要なのです。